厩岸壁で照らされる太陽の海鏡
小学生の頃、駄々をこねて、父親が大好きだった釣りに同行していました。
午前三時には自家用車で出発。一人ではそんな早くに起きれないから出発前に、「ちゃんと起こして」と強くお願いをしておきます。面倒臭いと思いながらも断ることは出来ない父親は、息子の要求にちゃんと答え石狩川や小樽築港へと自家用車を走らせます。息子は車中で足りていない睡眠時間を確保。起きたら眼前に河や海が待ち構えています。
小樽築港には、釣りスポットとして厩(うまや)岸壁という場所があります。車で港湾内まで行けるような場所だったと思いますが、朝から沢山の釣り好き親父たちがすでに竿を仕掛け待機しています。まだ、ちゃんと陽も昇っていない時間帯だというのに。たかが釣りなのに、なぜこんな早くに起きれるのだろう、なんて子供心に釣り好きな親父たちを少しだけ呆れてみていました。
釣り場に付いたら父親が全て仕掛けを準備し、自分は竿を海に投げるだけ。
昔の海や川は今よりも綺麗だったから、餌をつけなくてもチカやうぐい等の魚が勢いよく針に食いついてきました。
君たちも腹ペコだと勘違いするんだね
魚が食いついてきたときの、あの竿から伝わる、ぐぐぐっていう引っ張られる感触、小魚たちが生きるための全身全霊の力、そういう感触を感じられることがたまらなく楽しく思えたものです。
少しづつ正午に向かって時間が流れると、ついに、雲一つない空に太陽だけが何ものも寄せ付けない雄々しい態度で厩岸壁を照らします。岸壁から釣り針の様子を覗き見た僕は、海面にある無数の鏡が意地悪にまばゆい光を反射させてくるので、うっかり目を細めてしまう。でも、何も怖くはなかった。
父親は仕事が忙しく、酒におぼれたり、母親に酔った勢いで暴言を吐き、そのまま自分も怒鳴られたり、そんなこともありました。沢山の時間をかけて父親との関係を経験し、それは良いことも悪いことも含め、でも最後は父親も自分の人生を生きてきただけなのだ、と理解したら。
ああ、そうか。自分も大変なんだけど、父さんも大変だったんだね。
もし、次に出会ったら、厩岸壁から船出して少し沖で釣りしてみよう。船代は僕が貯めておくから、いそめや仕掛けは買っておいて。でも、いそめは、冷蔵庫には入れてくれるなよ。
10年ほど前に父親は他界しました。
父親を亡くした年に、自分を取り巻く空気が変わった気がしました。僕は直感が鋭いので、ちょっとした違いや違和感を日常生活で感じることがあります。なお、父親が生きていた時は、自分の取り巻く空気はグレーで曖昧な感じでした。それは、自分が経験したことも大変あやふやで経験として蓄積されていない、記憶にも残りにくい、そんな印象でした。それが、父親が亡くなった年から、自分の現実をしっかりと歩んでいる、という印象に変わっていったのです。
去年、父親と自分の命式を見てくださった算命学の鑑定師にこう言われました。
父親を亡くしてから、自分の宿命にきずいたのでしょう、と。
自分の宿命を見ると、陽占にその傾向が。父親と運勢をシーソーしていたようです。 その上、父親は日座中殺。男子を生み結婚は完成。父親の保護の下で暮らしていては、その影響を強く受けてしまいます。そして、僕は父親に運勢を奪われていた。初年期の半生を振り返ると、あまりにも残念な人生で記憶に残りずらいものでした。その反面、父親は公務員として地方の長の次点まで出世し、その後は金融機関に再就職。収入は相当に頂いておりました。
運勢は奪い奪われる
何も成し遂げられず、努力は報われなかった半生。
当時は悔しさを握りしめ歯を食いしばり、八つ当たりするのを堪えていました。
でも、今となっては、全て過ぎた事。そんなこともあったなあ。
最近、父親が引きこもり息子を刺殺してしまう事件がありました。あるサイトの算命学鑑定師さんの見解でも、父親が息子の運勢を奪い父親自身の運勢が大きく伸びた、とありました。
よく、わかります。
でも、 息子にも自立して運勢を稼働させることは出来たと思います。何もできない不運な命式が存在するとも聞きます。でも、現実世界で自分の力を信じて努力し邁進するだけでも、その後の半生は大きく変わったものになるのではないでしょうか。そして、息子にも自立できるチャンスはあったはず。チャンスの数が多いか少ないかはあっても、やはり自分の人生にもチャンス自体があることにおいては皆平等だと思うのです。
他人のせいにして生きることの怖さ、そして自立して生きる意味合いの深さを感じます。
陰占で見ると、父親と自分には納音が成立、父親の命式に宿命干合があり、干合すると律音が成立、自分には宿命律音が成立している、となんともまあまあ、似ているのです。実は、持つ星に違いはあっても陽占も似ています。
父さんは産まれた時の僕のことを知っているから当然息子だと思うのでしょう
僕は厩岸壁で一人海に向かって釣りをしていると僕の父親はあなただけだと思うのです